珠洲時間で咲く美しさの種|〈Gallery 舟あそび〉舟見有加さん
能登半島の最奥、石川県珠洲市。令和6年能登半島地震は、この地に流れる穏やかな時間を一変させた。しかし、そこには「またつくればいい」と前を向き、ひとつずつレンガを積み、花を植え続ける人がいる。珠洲焼の魅力を発信し続けてきた〈Gallery 舟あそび〉の店主・舟見有加さんもそのひとり。人や自然など、珠洲の豊かな価値を再認識しながら、ギャラリーの再建を目指す。

珠洲の美しさに魅了されて移住
金沢市出身の舟見有加さんが珠洲へ移り住んだのは約18年前。金沢のギャラリーで5年間勤務していた彼女は、珠洲焼作家でパートナーである篠原敬さんの作品を展示する場を作ることを考えた。舟見さんが建物に求めたのは、現代的なホワイトキューブではなく美しい日本家屋だった。
2007年、珠洲で取り壊し寸前の古い空き家を紹介される。大家さんとの縁を感じた舟見さんは、半年かけて自ら手を入れ、2008年10月に〈Gallery 舟あそび〉をオープン。店名は自身の名字と「舟あそびのごとくゆらゆらと」という思いから名付けられ、15年にわたり愛されてきた。

「壊れたら、またつくればいい」
しかし、近年、能登は相次ぐ地震に見舞われた。2022年、2023年と大きな揺れが襲うたび、パートナーである篠原さんの窯は崩れ、丹精込めて作った作品たちが割れていく。それでも「20年、30年先を担う若い世代も使えるように」と、4か月かけて新窯を完成させた。
その新しい窯での「初窯」の火入れを目前に控えた、2024年元日。またも大きな揺れが能登を襲う。火入れを待つばかりだった新しい窯が一度も使うことなく崩落し、150点以上の制作途中の作品も日の目を見ることができなくなった。〈Gallery 舟あそび〉と住宅も大きな被害を受けた。

絶望の淵に立たされてもおかしくない状況だが、地震直後から「またつくればいい」と再建に向けて動き出した。全国からボランティアや珠洲焼のファンも駆けつけ、崩れた窯のレンガを一つずつ掘り出し、整理する作業が始まった。
舟見さんは、避難先の金沢で企画していた展覧会を実施しながら、珠洲でのギャラリー再建を確信していた。「危ないから金沢でやればいい」という周囲の声も多かったが、彼女がやりたいギャラリーは、珠洲の美しい自然と人の営みがあってこそ。
再建に向けて、力強い後押しもあった。「なりわい再建支援補助金」の活用を考えていたが、その場合、古民家の持ち主である大家さんが申請しなくてはならない。それならばと、すぐ近くにある別の更地を「新しく建てるならここを使っていい」と提供してくれたのだ。
また、金沢のコンサルティング会社〈アルスコンサルタンツ〉が、珠洲の営業拠点として住宅を建設し、舟見さん夫妻が管理人としてそこで暮らせるような支援プランも立ち上がった。
みんなが応援してくれる。支えてくれる。「だから珠洲から出るなんてとんでもない」と力を込める。それだけ珠洲が魅力的な場所でもあることの証明だ。
新しい「舟あそび」から珠洲の文化を発信

2026年秋のオープンを目指す新ギャラリーは、屋根は低く、珠洲の風景に溶け込むような、静かな佇まいの平屋になる。これまでのギャラリーは古民家だったので、日本の伝統的な美意識を中心においていたが、これからは新築になるので、人と人やもの、それらのなかにある「間」も伝えていく。
舟見さんが学んでいたお茶をみんなで楽しめるように、炉を切って茶事ができるような和室をつくる予定。
「そこまできちんとできるかわからないので、カジュアルに、みんなで楽しめるような“茶の湯”のかたちでできたらいいなと思っています。作家さんのうつわや道具を使ったり、茶懐石料理も楽しみたい」
お茶には削ぎ落とされた美しさがある。小さな動きのなかに、大きな世界が詰まっている。いろいろな要素が含まれていて、それぞれの美しさを丁寧に伝えていくことができる。
「日本の、そして珠洲の美しさを伝えていけたらいいなと思っています。以前のように展覧会を開催して『それに合わせて来てください』というスタイルに加えて、時間と空間に思いを乗せた企画をしていきたいと思っています」

ギャラリーではワークショップや体験事業による文化継承も積極的に行なっていきたいという。いま気になっているのは味噌作り。京都にある木桶でつくる天然醸造製法の老舗味噌蔵〈加藤みそ〉と協力して、“珠洲味噌”作りを計画している。
珠洲には味噌をつくるのに必要な素材がすべて揃っている。狼煙地区でつくられている「大浜大豆」、海水から作る「揚げ浜式の塩」、そして地元のお米から作る米麹。それらを地元の山で倒木した樹齢数百年のスギを用いた木桶で仕込む。すべて地元産ならば、同じ水からできているから味噌としての強みがある。
舟見さんは、常にこうした「珠洲に役に立ちそうなアンテナ」を張り、ふんわりと構想を描いている。それが京都で体験した味噌作りとまさに今、つながったのだ。とはいえ「本当は自分が楽しみたいというのが一番なんですけどね」と笑う。そうでないとサステナブルにならない。使命感だけでは疲弊していくし、やっている本人が楽しんでいる様子を見て、みんな参加していくのだから。
「ボランティアではなく、それぞれが仕事として成り立つようにしないと続きません、そのような仕組みを作りたい。堅苦しいギャラリーから解放して、珠洲でしかできないことをみんなと一緒に楽しみたいと思っています」
「一人一花運動」で人を呼び込むまちづくり

舟見さんの活動は、ギャラリーの枠を超えて町全体へと広がっている。その中核をなすのが、「一人一花 in 能登半島プロジェクト」。もともと福岡市で行われていた「一人一花運動」をモデルに、建物が解体された跡地へ地域の人たちと一緒に花を植えるという活動だ。親交のある俳優の常盤貴子さんがアンバサダーとして能登の各地域で活動を進めており、舟見さんに珠洲を担当してほしいと声をかけてくれた。
「花を植えることで人々の気持ちを前向きにしたい。それだけで心は清らかになり、前を向ける。そんなきっかけを町の中に増やしたいんです」
実は能登における一人一花運動は「能登半島地震復興支援 明日のための今日の一歩プロジェクト」の初期段階。次のステップとしては、古民家の再生がある。古いものや愛されてきたものを見直し、まちのアイデンティティとブランディングの確立を目指す。その先には人口減対策・定住人口の確保としてヴィレッジ構想まで見据えている。
「いま能登半島に14のガーデンがあります。ガーデンをもっと増やしていきながら、そこを拠点とした宿泊施設なども整備すれば、ガーデナーの人たちも泊まれるし、外から来た人が珠洲暮らしを体験できる施設になります。少しずつ人を呼び込んで、能登の復興やまちづくりにつながることを目指しています」
このプロジェクトを通して、地域の人たちとの新しいつながりが増えた。いま能登に必要なのは、活動する人の数。「みんなで珠洲の未来をつくることが必要」だと考えている舟見さんがそのつなぎ役になっている。
珠洲は、珠洲時間で。
「人は美しいものを見たときに、前向きになれる」
これが特に震災後の舟見さんの行動原理かもしれない。
「震災で、最初の数日は呆然としてしまったけど、片付いてくるとやはり気持ちがいいねって篠原とも話していました。ギャラリーとしても、そういう『美しさ』から生まれる感情を伝えたいと思っています」
珠洲には、美しいと感じるものがたくさんある。
「人が作るものには、自然にあるフォルムやラインが表現されていて、それが美しさになっていると思います。そのお手本になるようなものが珠洲には散りばめられていますね。人の手が何も加わっていないワイルドな状態にも美しさがある。地震は、結果的にですけど、人のやさしさにも気がつかせてくれました。人間も同じで、生きているということは強さや優しさと同時に、悲しさもある。隣り合わせであるからこそ、染みるのだと思います」
人からも感じる美しさ。震災という大きな悲劇を経験したからこそ、舟見さんは「美しいこと」を意識する大切さを痛感している。こうした美しさは珠洲に移住してから感じるようになったことだ。
「金沢時代は多い時で1か月に 3 本くらい企画を入れてたんですよ。そんな状況だと、周りの美しさなんて見えませんよね。今は冬場の半年間クローズしているので、インプットする時間に充てられます。珠洲だからできていると思いますし、それを許されている感じがします」
それを「珠洲時間」と表現する。
「自分に向き合う時間をちゃんと与えてもらえている感じがします。それぞれのペースを尊重しながら、無理せず自分たちのペースで。先日、おばあちゃんとスーパーの帰りに立ち話になって、ちょっと長いなぁと思いながら『ま、いっか』って思えちゃう。 そんな中に1 つ 2 つ今日は良かったなって思えることがあったりするのも幸せですよね」

新ギャラリーがオープンするのは2026年秋の予定。最初に展示されるのは、窯を応援してくれるみなさんの作品になりそうだ。
「窯を応援してくれている人たちそれぞれに100グラムの土で作品を作ってもらい、焼いています。それを並べたいです。これまでの感謝と、みんな珠洲に取りに来て、というきっかけを作りたい」
「珠洲は珠洲の時間で、復興していけばいい」
レンガをひとつ、花を一輪、土を100グラムずつ。ひとりひとりが焦らず、一歩ずつ、珠洲を思うこと。それこそが復興の姿であり、これからの珠洲を形作るベースになるのではないか。舟見有加さんが植えた種は珠洲の土に根を張り、近い未来に美しく咲くことだろう。
PROFILE
舟見有加(ふなみゆか)
石川県金沢市のギャラリーに5年間勤務後、珠洲市に移住し、2008年10月に〈Gallery 舟あそび〉をオープン。令和6年能登半島地震にて、ギャラリー及び自宅が大きな被害を受ける。2026年秋のギャラリー再建を目指し活動中。
INFORMATION
Gallery 舟あそび
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